第9回日本トライアスロン選手権東京港大会
2003 ITUインターナショナルイベント東京港大会

 作戦は往々にして予定通りいかないものである。臨機応変の才能が適切に発揮されることを必要とする。
 
 いまや全国区となった東京都のお台場において11月9日2003ジャパンカップ最終戦の日本選手権が開催された。同時にITUインターナショナルイベント東京港大会でもあるためダブルタイトルの懸かった今シーズン国内最後のビッグイベントである。今回はレーススケジュールの関係か、男女共外国選手の参加はなく全員日本選手である。純粋な日本選手権となった。

 時々明るくなるものの今にも降り出しそうな雲行きの中、午前10時30分、お台場海浜公園のビーチより61名の男子選手が一斉スタート。
 気温16度C、水温19度C、曇り、北東の風3メートル。全員ウエットスーツ着用。右回り一周750mを二周回。

 1周目トップで折り返したのはやはりトライアスロン界のトップスイマー平野司、すぐ後ろに湘南ベルマーレの山本良介、約5m後ろにディフェンディングチャンピオン福井英郎、一昨年の本大会優勝者田山寛豪が続き、少し水が開き、アジアジュニアチャンピオンであり稲毛ITCの19歳若きエリート細田雄一、小原工と続く。 
 今シーズン初戦石垣島大会のあと、51.5キロのトライアスロンディスタンスのレースからの引退を表明した小原工36歳がなぜか参加。
 17分10秒で平野がトップ、2秒後に山本良介、19秒後田山、24秒後に福井とそれぞれがトップからのビハインドタイムでスイムフィニッシュ。5番手以降は福井から20秒以上遅れてのフィニッシュ。まだ雨は降り出さない。

 バイクコースはお台場の市街地、ほぼ平坦の5km。10ヶ所以上のコーナーを含む左回り8周回。
 1周目福井、田山が先行していた平野、山本良介に追いつき4名の集団を作る。30秒離れて細田、小原、日本ランキングNo.1の西内洋行等の強豪を含む6名の集団が続きバイク序盤戦が始まる。4人の第一集団は福井、山本を中心として逃げ体制に入る。2周目その差がわずかに広がる。北風が少し強まる。

 それは3周目に入る直前におきた。福井を先頭に2周回目の最後のコーナーに入ったとき2番手にいた平野がフェンスの足にタイヤを取られ、肩からフェンスに激突、肩に裂傷を負いながら落車。後続の田山、山本共に落車は免れたものの福井と大きく離れてしまう。平野はキズを見てこの時点でリタイア。バラけてしまった第一集団。福井は後続の二名を確認しながら3周目に入るが2人は福井に追いついてくる様子を見せない。少人数ほどコーナーは速く通過できる。いくつかあるコーナーを速くクリアーし後続との差を広げたい。福井のアグレッシブな走りに恐れを感じてしまったようだ。 後続の6名が追い上げてくる。
 ひとりで残り6週を逃げ切るのはあまりに無謀。福井の作戦は、スイムで先頭集団に入り、数名でバイクの逃げを決め、最後のランでどこまで自分を追い込めるかというハイスピードなレース展開であった。バイク2周目にして作戦頓挫。
  
 3周目の後半でばらついた3人が後続の集団に吸収される。この時点で第一集団9名が形成される。福井は作戦の変更を迫られながらもこの集団を積極的に引きながらアタックのチャンスをうかがう。
 4周目、5周目と何人かが積極的にアタックをかけるがなかなかリズムが合わず決まらない。逃げを決めたい選手、このままラン勝負に持ち込みたい選手の緊張した駆け引きが続く。 
 6週目の中盤、この第一集団の中にいた細田と山本淳一の稲毛勢2名がタイミングよく集団を20数秒リードして逃げに入る。タイミングを外した福井は集団をキープ。同じ稲毛勢の逃げをサポートすることも含めて集団後方に位置取る。残り周回を考え無理せず決死のラン勝負を決意。空が少し明るくなる。
 逃げた2人と集団が35秒まで開いてバイクフィニッシュ。
  
 山本淳一、細田と続いてランスタート。35秒遅れの集団から西内、田山、福井、山本良介、小原、竹内鉄平らが続けざまに飛び出していく。
 緩やかなアップダウンを含む2.5kmを4周回。
 左足にトラブルを抱える山本淳一が遅れ始め、細田が1周目トップをキープ。日本選手権という大舞台でのジュニアの健闘に観客の喝采が飛ぶ。
 3番手スタートしたラン得意の西内が追い上げてくるが、その西内のすぐ後ろに田山と福井の姿。ほとんど同時にランスタートした山本良介、小原等は遅れ始めている。

 田山、西内、福井は2周目に山本淳一を順次交わす。この3人の順位が頻繁に入れ替わる。西内がトップに立つと追走してくる田山、福井を引き離そうと、スパートをかけるがなかなかその差は開かない。
 3周目にはトップでがんばっていた細田をこの3人が次々抜いていく。この直後田山が遅れはじめる。依然福井はぴったり西内をマークしている。 

 西内は福井の粘りのある追走に気づき、何度か揺さ振るようにスパートをかける。
 数メートルの差が開きかかるが、福井はあきらめない。追走というより追撃である。西内の走りにピッタリついて行く福井の姿を、信じられないものを見るように観客の目が追う。

 残り一周半、二人のトップを争うデッドヒートが繰り広げられる。
 何度もかかる西内の揺さ振り。振り切れるはずと信じている。
 安定した走りであるが追われる者のわずかな苦しさをのぞかせる西内。
 自己のスピード領域を超え、獲物を追い続ける猟犬のような執念の福井。
 限界を超えている。何ものにも負けていない。気力が肉体を引き続ける。ピリピリした肉体の痛みが見るものに伝わってくる。見ていられない辛さを感じる。
 最後まで追撃に中断はなかった。追い抜く事はできなかったが西内に10秒差でフィニッシュ。朦朧とした意識の中で悔しさを感じながら崩れるように倒れこむ。

 3種目の中で最も苦手とするランで、実力ナンバーワンのランを最も得意とする西内を最後まで苦しめた事は彼にとって大きな自信になると同時にある転機となるだろう。
 レース後、真剣な表情で「追い抜かれるかと思った」と語ってくれた西内選手の一言は、スピード上は追い越されるはずはないと分かっているものの、すぐ後ろに肉迫している気迫とオーラが彼の感性に恐怖に近いプレッシャーを与え続けた故であろう。結果的に精神力を含めた力と力の一騎打ちとなった。作戦をたて戦略を練っても最後の最後には力のぶつかり合いとなる。
 思い出に残る素晴らしい一戦であった。
HIDEN’S COMMENT

 レース当日、この日は空にやや雲がかかり肌寒い朝だった。レース会場まで自宅から車で移動できるため朝もいつも通りに朝食を取り、とても落ち着いて会場へ向かえた。レース会場に着くと、今日の調子がどうなのか気になっていた。今回のレースの目標は倒れるくらいまで追い込むこと。これが出来ればこのレースは必ず良いレースになると信じてスタートを待った。

 AM10:30、エリート男子スタート。スイムではウエットスーツ着用で思い切って前半から飛び出して行った。3位の位置をキープしながら一周回目を終えるが、2周回目に入るとバテ始め4位へと落ち、先頭二名から24秒遅れ、3位の選手から5秒遅れの単独4位でスイムを終えた。
 バイクでは自分で前を吸収しながら4人で逃げることを決め約5キロ地点で4人の集団を形成する事ができ後続との引き離しにかかった。後続は25秒差の6名。含まれているメンバーを考えると絶対に逃げるしかなかった。

 しかし3週回目に入るコーナーで落車が起き集団がバラけてしまった。まだ後続との差を大きく開いていない第一集団は乱れが生じ第二集団に吸収されることになる。これで9人の第一集団が出来る。ラン勝負になると判断し何度かそれを避けるため揺さ振りをかけたが失敗。ラスト10キロでチームメイト2名が逃げに成功し35秒まで引き離した。

 先頭からは約30秒遅れでランに入り、この集団にいた西内(チームテイケイ)と田山(流通経済大学)と自分の3名で前を追う。やや遅れを取るもののデッドヒートでの10キロとなり順位はめまぐるしく変わった。自分は最後まで必死に走っていった。最後は何も考えられなくなっていたが2位でフィニッシュ。全力を出し切れたレースが出来た。今シーズン最終レースとして結果は悔いの残るものとなったがまだまだ自分はやれることに自信を持つ事ができるレースになった。
今年経験した失敗や成功を来年のバネにしたいと思います。当日会場まで応援に来ていただいた方々、数多くのご声援本当にありがとうございました。
福井 英郎