| XTERRA 世界選手権 | |
ハワイ諸島の中でハワイ島に次いで大きな島マウイ島。 福井選手は10月21日、太陽がその明るさを最も増している大地に確信をもって降り立った。優しく舞い立つ風がその確信を静かに包み込む。前を見る目がきらきらと光っている。リラックスしている肩から抜けた力が大気に溶け込む。故郷に戻ったような心地よさが体から溢れている。 |
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XTERRA世界選手権。世界から各国で行なわれた予選会を通過したプロ男子54名、プロ女子、アマチュア男女合わせて413名が集結。プロ部門にはトライアスロンでアテネオリンピックに参加したスイスのオリビエ・マルソー、エネコ・ラノスなどの51.5キロのスペシャリストが出場。そして17日にハワイ島コナで行われたアイアンマンで2位のピーター・リード、7位のキャメロン・ウイドフなどロングのトッププロ達が2週連続となるものの、このレースに特別に設定されたスペシャルパース$2500を狙って参加。またレースのトータルタイムの50%以上を占めるバイクレグが、レース結果に大きな影響があることから、泳いで走れるマウンテンバイクのトップライダーも大挙してエントリーしてきている。構図としてトライアスリート対マウテンバイカーの戦いとしてこのレースを捉えることも面白いかも知れない。 |
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スタートはオフィシャルホテルであるマリオットホテルの隣にあるホテル前のビーチ。気温28℃、湿度70%、水温26℃。風はほとんど無い。透明度が高く美しい海だ。 9時アマチュアを含め467名の選手が一斉にビーチスタート。沖合いにある2つのブイを右に回る一周750Mを2周回1500M。 |
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1周目最初にビーチに立ち上がったのはグリーンのスイムキャップ、アマチュアのスイムエキスパートだ。10秒以上はなされて白のスイムキャップのプロが一団となって続く。福井はプロ集団のトップ(2番手)で2周目に入っていく。 ドイツのアマチュア選手であるヤン・ジバーゼンが2位以下を40秒以上引き離してスイムトップでフィニッシュ。福井は44秒遅れの3位。前後差が無く続々とプロがフィニッシュ。 ここで今回のレースで最初の試練が選手を待ち受けていた。バイクトランジッションまで1マイル(1.6km)のランである。それも高低差50mはあろうと思われる登りコース。ずっと続く登りがスイムを終えたばかりの選手を苦しめている。 |
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朝日を背にしたハレアカラ山の広々とした裾野に選手たちが続々とすいこまれて行く。 |
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| バイクコースはオフロード30km。主に前半登り、後半下りになるレイアウトだ。 しかしこのバイクコースには予想もしないとんでもない障害が待ち受けていたのだ。 福井選手のバイクは9月に優勝した奥日光丸沼で行われたエクステラ日本選手権の時と同じであるが、ホイールとタイヤが各スポンサーの協力を得て最高級のチューブレス仕様にグレードアップされている。結果的にこの変更が今回の好成績を支える大きな助けとなった。 それはバラのとげを少し長くしたようなとげがバイクコースのいたるところに散乱していたのである。 |
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その正体は、コースの両側に生えている潅木の枝に生えているとげが剥がれ落ちたものだ。自然の摂理の上で何らかの役目を果たすために落ちたとげであろうが、その路上を通行するものにとってははなはだ迷惑な物である。レース本番前日の数キロの練習走行で3本のとげが刺さった。 |
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| チューブレスタイヤはこのような障害物に対して絶大な効果を発揮する。硬く非常に鋭利ではあるが、なめらかな表面を持ったとげであるため、タイヤの構造的にこのとげを抜かない限り、内部の空気が抜けないようになっている。刺さったままなら走行可能ではある。 |
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| しかし走行すれば間違いなく刺さる事が解って、何も対策をせずに本戦に望むのはかなり不安だ。万が一空気が抜けてしまった時のタイムロスはきつい。重量増になるがパンク防止剤の入ったチューブを入れよう。チューブレスタイヤにアンチパンクチューブの2重防御作戦だ。 最強のパンク防止作戦ではあるがホイールの外周部が重くなる事は選手に余分な負担をかけることになる。ましてや軽量化を最大のメリットとするチューブレスホイールには矛盾した対策かも知れない。しかし急がば回れ。確実性の高い道を選ぼう!パンクするよりはタイムロスは少ないだろう。その上初めて走るコースだ。頑張ってくれ福井選手! |
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| そしてホイールの問題以上に他の選手と比較するとまだ不利な条件があった。マウンテンバイクの練習経験がほとんどないこと、初めて走るコース、オフロードレースがまだ3戦目ということなどもそうであるが、それにもましてバイク本体がフロントサスのみのシングルサス仕様であることだ。 |
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経験はない、機材は劣る、はた目には感覚的に250CCのレースに50CCの原チャリで挑むような感じである。 オフロードレースに出始めて3戦目が世界選であることが間違いなのであろう。すごい事ではあるが……。 しかし福井は飄々としている。不利など全く感じていないようだ。チャレンジする事にワクワクしている。 |
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| 早くレースに出たがっている。見ているものを安心させるための演技とも思えない。もともとそんなことに器用な奴じゃない。愚直というほどでもないが、まっすぐ過ぎるくらいまっすぐである。 |
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| 5〜6人の集団の中の5番手でバイクスタート。回りはそうそうたるメンバーだ。 スタート直後マルソー、ラノス、ドベなどの優勝候補が他の選手をおいてさっさと行ってしまう。前半はほとんど上りだ。覚悟はしていたもののロードレーサーとは比較にならない走行抵抗と速度感の違い。かかってくる抵抗のわりに速度が伸びない。当然だ、太いタイヤにグリップを重視して低めの空気圧。これでもまだ路面がドライだから良い方だ。 突然横を他の選手が追い抜いて行く。ゼッケンの確認も出来ないほど速度差がある。見た事のない体つきの選手だ。マウンテンのスペシャリストだろう。また来た、この速度差はどうしようもない。ロードではほとんどありえない経験だ。情けなくなってくる。しかしほぼ同時にバイクスタートしたヤン・ルーラは自分から切れていく。頑張らなくっちゃ! バイクのコースレコードを持っている南アのコンラッド・シュトルツが追いついてきた。またかと思った直後、シュトルツがバランスを崩す。ペダルから足が外れている。クリートかペダルのトラブルだ。停止して戸惑っている。ラッキーとは思わないもののそのまま留まっていてくれ!とひそかに願ってしまう。脇をすり抜ける。 |
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| 結局登りで4〜5人に抜かれる。まだギリギリ10番以内には入っているだろう。 下りに入るとWサスの優位を生かした選手が次々と追い抜いていく。4〜5人に抜かれる。もう足はパンパンだ。大腿の筋肉がつりかかっている。腕にも力が入らなくなってきた。道がほぼ平坦になった。観客の姿が見えてきた。やっとバイクフィニッシュだ。14位!誰かが叫んでくれた。バイクラップ1時間38分07秒。男子選手352人中22位のタイムだ。 悪くない!あとはどこまでランで粘れるか? シュトルツはこなかった。同じ日本選手の湯本にも抜かれなかった。苦しく疲れている身体に新たな力がしみこんでくる。 |
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| 1時間38分を越えるオフロードのバイクタイムを乗り越えた足が11kmのランの一歩を踏み出す。つりそうな部分をかばいながらかろうじて走りのフォームをキープする。前にいる選手は誰だろう。知っている選手は3〜4人。すると残りの10人近くはマウンテンバイカーか?一人追い抜くが、すぐ一人に追い抜かれる。一歩、一歩、歩を進める。ゴールはもうすぐ。前にいる選手と間隔が詰っている。さっきの情報が間違いなければ現在14位。 |
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最後の岩場をぬける。ビクトリーロードに入った。両側の観客たちの応援が体全体を包んでくれる。一瞬疲れや苦しさを忘れる。ゴールテープをしっかり両手でつかんだ。 終わった!走りきった!全力を出し切った! 何度も負けそうになった自分にも負けなかった。これでいい。これでいいんだ! |
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| ゴールエリアの芝生が優しく迎えてくれた。周りの全てのものに感謝したい。感謝してもしきれない。言葉にならない満足感が体の中から沸きあがってくる。観客たちの声が遠くから聞こえてくるようだ。風が体の表面を心地よく流れる。そうだ、少しの間でいいこのままにしておいてくれ……。 |